食いしばりや歯ぎしりが原因でインプラントは壊れる?注意点まとめ
「インプラントは食いしばりや歯ぎしりで壊れるって本当?」
「せっかく治療したのにダメにならないか不安…」
と感じている方も多いのではないでしょうか。
実際に、強い食いしばりや歯ぎしりは、インプラントに大きな負担をかける原因になります。
天然歯には“力を逃がすクッション”の役割をする組織がありますが、インプラントにはそれがないため、過度な力が加わると、人工歯の破損やネジのゆるみ、最悪の場合はインプラント周囲の骨にダメージが及ぶこともあります。
しかし、食いしばりや歯ぎしりがあるからといって、必ずしもインプラント治療ができないわけではありません。噛み合わせの調整やナイトガード(マウスピース)など、適切な対策を行うことで、長く快適に使い続けることも可能です。
この記事では、食いしばり・歯ぎしりによって起こるインプラントへの影響をはじめ、壊れるリスク、注意点、長持ちさせるための対策についてわかりやすく解説します。
食いしばりや歯ぎしりの癖があってもインプラント治療は可能
結論から言うと、食いしばりや歯ぎしりの癖がある方でもインプラント治療を受けることは可能です。
ただし、治療前に歯科医師がその癖を把握し、リスクを考慮した上で治療計画を立てることが不可欠です。
インプラントは天然の歯と異なり、骨と直接結合しているため、過度な力がかかるとダメージを受けやすい特性があります。
そのため、治療後はマウスピースを装着するなどの対策が必須となります。
歯科医師と十分に相談し、食いしばりのリスクをコントロールしながら治療を進めることが重要です。
なぜ危険?食いしばりがインプラントに及ぼす4つの悪影響
食事の際に食べ物を噛む力は、一般的に体重と同程度と言われていますが、睡眠中の食いしばりや歯ぎしりは、その数倍から十数倍もの力がかかるとされています。
これほど強い力がインプラントに加わり続けると、人工歯のすり減りや破損だけでなく、インプラントを支える骨にも悪影響を及ぼしかねません。
天然歯とは異なるインプラント特有の構造が、食いしばりのダメージをより深刻にする要因となっています。
影響①:天然歯のクッション機能(歯根膜)がなく衝撃が直接伝わる
天然歯の根と顎の骨の間には、「歯根膜(しこんまく)」という薄い膜状の組織があります。
この歯根膜は、噛んだ時の力を吸収・分散させるクッションのような役割を果たしています。
しかし、インプラントは顎の骨と直接結合しているため、歯根膜が存在しません。
そのため、食いしばりによる強い力が緩和されることなく、インプラント本体や周囲の骨にダイレクトに伝わってしまい、大きな負担となります。
影響②:インプラントの被せ物(人工歯)が破損しやすくなる
インプラントの上部構造である被せ物(人工歯)には、審美性に優れたセラミックなどの素材がよく用いられます。
これらの素材は天然の歯の硬さに近いものの、食いしばりのような持続的で過剰な力がかかると、欠けたり割れたりすることがあります。
特に、就寝中の無意識下での歯ぎしりは非常に強い力で行われるため、歯の表面だけでなく、被せ物全体が破損するリスクを高めます。
影響③:固定しているネジが緩み、インプラントが脱落する恐れがある
インプラントは、骨に埋め込む部分(フィクスチャ)、被せ物と連結する土台(アバットメント)、そして被せ物(上部構造)の3つのパーツで構成されており、多くはネジで固定されています。
食いしばりによる過度な力が繰り返し加わることで、この固定用のネジが緩んでしまうことがあります。
ネジの緩みを放置すると、被せ物がグラつくだけでなく、最悪の場合、インプラント体ごと脱落する原因にもなり得ます。
影響④:インプラント周囲の骨や歯茎に過度な負担がかかる
食いしばりの力は、インプラントを支える顎の骨や歯茎にも大きな負担をかけます。
過度な力が継続的に加わることで、インプラント周囲の骨がダメージを受け、徐々に溶けてしまうことがあります。
この状態が進行すると「インプラント周囲炎」という病気につながります。
インプラント周囲炎は、歯周病と同様に自覚症状が少ないまま進行し、最終的にはインプラントが抜け落ちる最も大きな原因となります。
インプラントを食いしばりのダメージから守るための対処法
インプラントを食いしばりのダメージから守るためには、歯科医院での対策とセルフケアの両方が重要です。
就寝中の無意識の力からインプラントを物理的に保護する方法から、日中の癖を改善する方法、さらには噛む力そのものをコントロールする治療法まで、様々なアプローチがあります。
自身の状況に合わせて、これらの対処法を組み合わせることが、インプラントを長持ちさせる鍵となります。
最も効果的な対策は就寝中のマウスピース(ナイトガード)着用
就寝中の食いしばりや歯ぎしりは無意識に行われるため、自分自身でコントロールすることは極めて困難です。
そこで最も効果的なのが、就寝時にマウスピース(ナイトガード)を装着する方法です。
マウスピースが歯と歯の間に介在することで、インプラントや他の歯にかかる力を和らげ、衝撃を吸収・分散させます。
これにより、被せ物の破損やネジの緩み、さらには周囲の骨への負担を大幅に軽減することができます。
日中の無意識な食いしばり癖を自覚し改善する
日中、仕事や家事などに集中している時、無意識に上下の歯を接触させてしまう癖がある方も少なくありません。
本来、リラックスしている状態では唇を閉じていても上下の歯の間には隙間があります。
この癖を改善するためには、まず自覚することが第一歩です。
歯科医院で噛み合わせを精密に調整してもらう
インプラント治療後、噛み合わせが適切に調整されていないと、特定のインプラントや歯に過度な負担がかかり、食いしばりのダメージを増大させる原因となります。
そのため、歯科医院で定期的に噛み合わせをチェックし、力のバランスが均等になるよう精密に調整してもらうことが非常に重要です。
適切な咬合調整は、インプラントだけでなく、残っている天然歯を守ることにもつながります。
筋肉の緊張を和らげるボツリヌス治療も選択肢の一つ
食いしばりの力が非常に強い場合、噛むための筋肉(咬筋)そのものの働きを弱める「ボツリヌス治療」も有効な選択肢となります。
これは、咬筋にボツリヌストキシン製剤を注射することで筋肉の過度な緊張を和らげ、食いしばる力を根本的に緩和する治療法です。
効果には個人差があり、永続的ではないため定期的な施術が必要ですが、マウスピースだけではコントロールが難しい場合に検討されます。
なぜ市販品はNG?歯科医院でマウスピースを作るべき理由
インプラントを保護するためのマウスピースは、ドラッグストアなどで販売されている市販品ではなく、必ず歯科医院で製作したものを使用する必要があります。
市販品は手軽に手に入りますが、専門的な知識なしに使用すると、かえって口内のトラブルを引き起こす危険性があります。
オーダーメイドと市販品には、その目的と精度において決定的な違いが存在します。
オーダーメイドなら噛み合わせに合わせた精密な設計が可能
歯科医院で作るマウスピースは、患者一人ひとりの歯型を精密に採って製作される完全なオーダーメイドです。
そのため、歯列にぴったりと適合し、装着時の違和感が少ないのが特徴です。
また、噛み合わせの状態を考慮して設計されるため、力が顎全体に均等に分散されるようになっています。
これにより、インプラントや顎関節を効果的に保護し、特定の歯に負担が集中するのを防ぎます。
市販品ではかえって噛み合わせを悪化させるリスクがある
市販のマウスピースはお湯で軟化させて自分で形を合わせるタイプが主流ですが、精密な適合は得られません。
不適合なマウスピースを使い続けると、特定の歯にだけ強い力がかかったり、顎の関節が不自然な位置に誘導されたりして、かえって噛み合わせを悪化させるリスクがあります。
また、顎関節症や頭痛、肩こりなどの新たな不調を引き起こす原因にもなりかねないため、使用は避けるべきです。
もしかして私も?食いしばり・歯ぎしりのセルフチェックリスト
食いしばりや歯ぎしりは、特に就寝中など無意識に行われることが多く、自覚していないケースも少なくありません。
しかし、体にはそのサインが現れていることがあります。
朝起きた時の感覚や、お口の中の様子など、目に見える変化や体感できる症状に注意を向けることで、自身の癖に気づくきっかけになります。
以下にあげる項目に心当たりがないか、確認してみましょう。
朝、目覚めたときに顎の関節やこめかみが痛い
朝起きた時に、顎の関節(耳の前あたり)やこめかみ、頬の筋肉に痛みやだるさ、こわばりを感じる場合、就寝中に強く食いしばっている可能性が高いです。
睡眠中に無意識下で持続的に筋肉が緊張し続けることで、筋肉痛のような症状が起こります。
これが慢性化すると、頭痛や肩こりの原因になることもあります。
頬の内側や舌の側面に歯の圧痕(跡)がついている
鏡で口の中を確認した際に、頬の内側の粘膜に白い線状の跡がついたり、舌の側面に歯の形に沿ったギザギザの跡がついたりする場合、日中あるいは夜間に歯を強く噛みしめているサインです。
これは、歯を食いしばることで頬や舌が歯列に強く押し付けられるためにできるものです。
インプラントの被せ物が欠けたり、外れたりした経験がある
特別な理由なく、インプラントの被せ物が頻繁に欠けたり、外れたりする場合、過度な噛みしめが原因である可能性が考えられます。
インプラントは通常の使用では簡単に破損しないように設計されていますが、想定を超える強い力が繰り返し加わることで、人工歯の破損や固定ネジの緩みといったトラブルが起こりやすくなります。
食いしばりに関するよくある質問
インプラントと食いしばりの関係について、患者様からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。
治療後の生活や費用に関する不安の解消にお役立てください。
食いしばり癖があると、インプラントの寿命は短くなりますか?
はい、適切な対策を講じなければ寿命が短くなる可能性があります。
食いしばりはインプラントに過度な負担をかけ、破損や周囲の骨へのダメージに繋がります。
しかし、就寝時にマウスピースを着用し、定期的に検診を受けることでリスクは管理可能です。適切なケアでインプラントの寿命を延ばせます。
インプラント保護用のマウスピース作製に保険は適用されますか?
いいえ、インプラントを保護する目的でのマウスピース作製は、予防的な処置と見なされるため、公的医療保険が適用されず自費診療となります。
ただし、顎関節症など、特定の症状に対する治療として製作される場合は保険が適用されることもあります。詳しくはかかりつけの歯科医院にご確認ください。
日中の無意識な食いしばりを減らすための工夫はありますか?
まず「意識すること」が最も重要です。
「歯を離す」「力を抜く」などと書いた付箋をパソコンやデスクなど、目につく場所に貼りましょう。
それを目にするたびに、上下の歯が接触していないか、顎に力が入っていないかを確認する習慣をつけることで、無意識の癖を減らしていくことができます。
まとめ:食いしばりは要注意!適切な対策でインプラントを長持ちさせよう
食いしばりや歯ぎしりは、自覚がない場合でもインプラントに深刻なダメージを与える可能性があります。
天然歯にある歯根膜のクッション機能がないため、過度な力はインプラント本体や周囲の骨に直接伝わり、破損や脱落、インプラント周囲炎のリスクを高めます。
しかし、歯科医院で製作したマウスピースの着用や、噛み合わせの定期的な調整、日中の癖の意識的な改善といった対策を適切に行うことで、これらのリスクは大幅に軽減できます。
3ヶ月から6ヶ月に一度は定期検診を受け、大切なインプラントを長持ちさせましょう。
記事監修 おのざと歯科院長 小野里 元気
■ 略歴
- 日本歯科大学新潟歯学部 卒業
■ 所属学会・資格
- 日本口腔インプラント学会 専門医
- 新潟再生歯学研究会 理事
- 日本先進歯科医療研究会 会員
- IDIA(International Dental Implant Association)指導医
- 日本臨床歯科CADCAM学会 会員
- 日本歯周病学会 会員
- 日本臨床歯周病学会 会員
- 群馬歯周治療研究会 会員
- デンツプライシロナ株式会社 ライブデモ講師